【機械設計の話】機械設計にとって材料の知識は不可欠だけど、奥が深すぎてツライ
機械を設計する時に、材料の特性を見落としてると思わぬトラブルが発生しちゃいます
でも、材料と一言で言っても実際は鉄、非鉄、樹脂、セラミックなどなど、幅広すぎる上にひとつひとつがディープなんで大変です
- この記事は機械工学を勉強している学生さんや、なんとなく設計という仕事に興味があるという人に向けて書いているつもりです。
- 自分が学生の時に気づけなかったことを中心に書いていきます。
- 勉強していることが仕事でどう使われるのかや、会社での仕事の実際を伝えたいと思います。
大学とかで習う材料関連知識の筆頭は、鉄の平衡状態図ではないでしょうか。
(下の図はwikipediaの”オーステナイト“のページから引用させていただきました)
私が学生のときには、この図のところでゲンナリしてしまいました。
私の理解力が足りなかった当て付けというか逆恨みで「材料なんて陰気でツマラナイ!」なんてレッテル貼りをする始末。
(当時の私には材料の講義を担当していた人をはじめ、研究室の人たちがみんな陰気な人に見えてました)
そのレッテル貼りのせいで、会社で働きだしてから苦労することになります。
タイトルに書いた通り、材料の世界は広く、深すぎるので、とてもじゃないですけどここで書ききれるもんじゃありません。
ですから、「材料の勉強はちゃんとやっとかないとマズいんだな」ということが伝えられることをなんとか書こうと思います。
材料の知識が無いと、設計時に材料選定できない
超当たり前のことを書いて恐縮ですが、学生のときの私はこれがわかってませんでした。
というより、「設計する」ということの中に材料選定をするということが入っていませんでした。
「とりあえず鉄かアルミかプラスチックのどれか選べばいいんでしょ?」くらいのノリです。
これは結局、設計するということが何をやることかを理解していなかったからだと思います。
(設計の仕事のイメージについてこちらの記事に書いてます)
「設計」の仕事は図面を書くことだけじゃなく、とても広範囲にわたるということを伝えたいです
だから勉強にも身が入らないダメ学生でした。
そんなことばかりではあったんですが、材料に関しては1、2を争うくらい重要性を理解していませんでしたね。
会社に入ってから最初にやらせてもらう、いかにも設計って感じの仕事は、何かの試験をする用の治具の図面を書くことが多いかもしれません。
私もそんな感じだったので「う〜ん、いよいよ図面を書くときが来たか」なんて思いましたが、わからないことだらけ。
その中でも一番よくわからなかったのが材料選定。
過去の図面を見ても、同じ鉄系の部品でもいろんな材料が使われています。
強度とか大して気にするようなところじゃないのに、なんでこんな使い分けしてるんだ?なんて。
当時の私には「材料の違いは強度の違い」くらいの認識しかありませんでした。
それは結局、加工のしやすさだったり、耐錆性だったり、入手のしやすさだったりとかだったんですけどね。
厚顔無恥(無知)な私は周りの先輩方が優しかったこともあり、いろいろ教わって勉強させてもらいましたが、思い返してみると非常に恥ずかしいです。
治具図面だとそういった程度で済むんですが、厳しい環境で使われたり、部品に複雑な機能を持たせていたりすると、もっと多面的に考えないといけなくなります。
どんな業界で働くかによって必要な知識の範囲も異なりますし、いきなり仕事で使えるレベルの知識を身につけるのもなかなか難しいです。
実際は仕事をしながら経験を積んで徐々に覚えてくことになると思いますが、学校で教わるような一般的なことはしっかり勉強しておきましょう。
材料に関するトラブルは、通常の使用環境からちょっと外れたところで起こりやすい
材料に関する問題の奥深さについて少し書いてみます。
例えば鉄は世の中にだいぶ普及していて、普通の環境で使う分にはノウハウもかなりたまっており、そんなに難しくないようにも思えます。
(その扱いやすさが鉄が重宝される理由でもあります)
ところが、とある条件での化学反応などによって、水素が発生する環境では、鉄が非常に短期間で突然破壊することがあります。
いわゆる水素脆化です。
これが発生すると、部品はポッキリ逝っちゃうもんですから致命的です。
使用環境にもよりますが、水素が発生する状況ってなかなか想像できないんですよね。
もう一つ例を挙げると、樹脂なんかは非常に扱いが悩ましい材料だと思います。
最近は高強度の樹脂材料も出てきて、強度が必要な部品にも適用されることがありますが、その強度の見極めが難しいです。
樹脂は部品つくりたての状態に対して、高温化で長時間放置されたり、水分や薬品を吸ったりすると強度が低下します。
(強度だけではなく寸法変化が大きい場合もあります)
環境によってはこの変化の度合いが非常に大きいので、その辺の試験データをちゃんと確認しないと、「なんでこんなすぐに壊れちゃうの〜?」ということになります。
こんな感じで、材料にはそれぞれ、設計者にとっては思いがけないような特徴が潜んでいたりするので、使い慣れない材料や、環境に適用するときは注意が必要です。
設計者は材料の壁を越えられない
設計するときには引っ張り強度や硬度などの材料物性値を元に検討します。
逆に言うと、材料の限界を超えた設計はできません。
その限界を超えていくのは設計者ではなく、材料研究のエキスパートです。
これまで機械設計をやってきた私の勝手な考えですが、機械の分野で世界に劇的なイノベーションを起こせるのは材料研究によるものだと思います。
例えば自動車だとCFRP。(炭素繊維と樹脂の複合材料)
こちらの写真はBMWの電気自動車「i3」のボディです。
もう随分前から燃費を向上させるために、車体の軽量化を各社進めていますが、鉄を使ったままだともうそろそろ限界が近づいてきています。
CFRPも研究はだいぶ前から研究はされていますが、量産性やコストの問題で、自動車にはなかなか適用されていませんでした。
一般的に普及するのはまだまだ先だと思いますが、このi3に適用されたことを皮切りに、徐々に広がっていくかもしれません。
そのほかにも、電気自動車やハイブリッド車に使われているモーターはまだまだ高価ですが、レアメタルを使わずに高い磁力を出すための開発が進んでいたり、水素による燃料電池車だったりと、パラダイムシフトというかイノベーションを起こせるレベルのことができるのは材料研究の特権です。
技術をかたちにする設計という仕事もおもしろいんですが、もし大学生に戻って進路を選択しなおすなら、材料研究の方に行くと思います。
(冒頭に書いたような、材料に対する変な苦手意識さえ無ければ。。。)
機械設計について書いてるブログなのになんですが、材料研究にはそういった面白さがあると思うので、進路選択の可能性として考えてみてください。