【機械設計の話】「量産」ではばらつきの大きさを考慮しよう
量産では1日にたくさんの部品、製品をつくるのでばらつきが大きい
それを考えないで「攻めた設計」をするといろいろとトラブルが起こります
- この記事は機械工学を勉強している学生さんや、なんとなく設計という仕事に興味があるという人に向けて書いているつもりです。
- 自分が学生の時に気づけなかったことを中心に書いていきます。
- 勉強していることが仕事でどう使われるのかや、会社での仕事の実際を伝えたいと思います。
量産する製品を設計する人は、これまたたくさんのことを考えないといけません。
特に「製造ばらつき」と「コスト」についてですかね。
今回は量産するということとばらつきについて書いてみます。(コストについては次回書くつもりです)
製品を量産するときの流れ
まず、量産の流れのイメージが分からないと話がしづらいので、下の図に概略をまとめました。
これはあくまで一例ですが、部品→モジュール→完成品という流れを、製品によって何段階かに分けて製造が進みます。
(製品によっては、モジュール組立てと完成品組立てが同じ工場で行われたりもすると思います)
実際には「部品製造」の右側に書いてある各工程は、工程ごとにさらに別の協力メーカーに依頼することも多々あります。
(例えば鍛造と熱処理は別のメーカーにお願いして、自分のところは機械加工をメインでやる、という感じです)
「量産」というくらいですから、1日にたくさんの量が生産され、それを延々と何日も、何ヶ月も続けます。
物によっては1日1000台以上つくったり、もっとつくるものもあります。
部品一つをつくるにしても何個も工程があり、それが何百個、何千個と組み合わさってひとつの完成品が出来上がります。
ひとつの製品をつくるために、非常に多くの工程が必要なことが伝わりますでしょうか?
また、量産においては「速く」つくれないといけません。
例えば、1ラインの稼働時間が1日12時間として、そこで1日1000台生産しないといけないとすると、約43秒で1つの部品、製品をつくらないといけないことになります。
ということを踏まえて、量産における「ばらつき」について考えてみます。
「ばらつき」はなんで生じるのか?
上に書いたように、量産では「速く・たくさん」を求められます。
例えば「このロープを100mmの長さに、5秒ごとに切り続けてください」と言われたらどうでしょうか?
器用な人は±1mm以内の誤差でできるかもしれませんし、雑な人は±5mmくらいずれた切り方をしてしまうかもしれません。
器用な人でも、ずっと切り続けていればだんだん疲れてきたりして、誤差が大きくなってくるでしょう。
このような感じで、量産の工程で作業する人はたくさんいて、全員が職人のような精度の高い仕事ができるわけではないので、ばらつきが発生します。
工業製品ではほとんどの工程が機械化、自動化されていますが、それでもばらつきは発生します。
例えば、旋盤で機械加工する場合は装置そのものの能力の問題だったり、加工を続けていると切削する工具の刃先が磨耗していって、寸法がずれたりということが起こります。
あとは、加工するものの材料によっては温度変化の影響で、膨張したり収縮したりして、寸法が狂うこともあります。
ここで挙げたのはほんの一例ですが、いずれにしても精度を安定させて生産し続けるということは難しいことなので、設計者の配慮が必要になります。
「ばらつき」と設計
ばらつきと言って真っ先に思いつくのが「寸法公差」ではないでしょうか。
この公差について、私が大学でどんな感じで教わったかすっかり忘れてしまいましたが、公差の存在については教わっても、どうやって公差を決めたらいいかはあまり教わらなかったような。
実際の仕事でも図面の公差をいくつに設定しようか悩む場面はたくさんありますので、簡単なものではないんですけどね。
寸法公差とコスト
簡単ではないというのはどういうことか。
部品の機能のことだけを考えればいいんだったら、考えられる限り目一杯厳しい公差を図面に書いちゃえばいいです。
だけど量産部品はそうはいきません。
公差を厳しくすると、
- コストがかかる加工方法に変えないといけなくなる
- 公差を外れた部品は廃棄しないといけないので、ロスが多くなる(歩留まりが悪くなる)
- たくさん製造できなくなる
という弊害がでてきます。(「量産性がない」という言い方をします)
ですから極力、公差を厳しくしなくても機能が成立する設計というのを心がける必要があります。
というか上司とか製造側からも散々言われます。
「こんなの高くなっちゃうだろ!!」「こんなの造れるわけないだろ!!」
公差設定の例
少し具体的に書くと、右の図のように穴と軸のはめあいの場合を考えます。
(A)のように、穴と軸がガバガバの設定でよければ、穴はボール盤で、軸は旋盤でバーッと削っておしまいにできます。
しかし「機能を考えてガタをなくしたいので、しまりばめの設定にする!」と言って(B)のような設定にすると、仕上げ加工として穴はリーマ加工、軸は研磨加工を追加しなくてはいけません。
工程が追加されるということはコストも上がります。
ですから、設計者としては「しばりばめじゃなくても機能を満足できる構造」を考えます。
量産製品の設計はこんなことの繰り返しです。(もちろん実際はもっと複雑ですが)
量産と製品の品質
もちろん量産品は不良品を市場に出してはいけないですし、出さないように努力と工夫をしています。
でも出ちゃうときもあります。
それをこれまで書いた「ばらつき」の観点から少し書きます。
「初期ロットは地雷」
よく新製品を出すとネットでこう言われちゃうメーカーもありますね。
これをばらつきの観点から掘り下げてみると、
- まだ、作業者が慣れていない(習熟していない)ので、図面の公差範囲外のものを市場に流出させてしまった
- 新しい製造方法を適用したので、実際のばらつき幅が開発中の試作のときにはわからなかったが、量産を初めて数をたくさん造ってみたら、思ったよりばらつき幅が大きかった
- お客さんの使われ方が、設計者が想定していない使われ方だったり、使用環境だったりした(使われ方のばらつき)
ということが考えられます。
ある程度の期間、量産を続けると初期に出た不具合が修正されて、品質が安定してきます。
市場に流出してしまった不具合の対応は、コストとエネルギーが非常にかかるので、「いかに想定外をなくすか」「いかに無理な造りをしないか」ということが設計者には求められます。
品質とコストと性能と
トヨタさんなんかはこの辺が非常にうまいんだと思いますが、その結果、「無難で面白くない」という扱いを受けてしまうんでしょう。
冒険するところと、無理をしないところのバランスは会社ごとによってカラーがあります。
よく日本の製品が品質が良いと言われるのは、とにかく細かいところまでこだわって、徹底的に不具合の芽を潰しに行ってる成果だと思います。
その分、仕事は大変になり、コストに跳ね返ってくるので、世界的に日本製品のコスト競争力が無いと言われている要因でもあります。
この「量産とコスト」の考え方について、次回もう少し詳しく書いていきます。
2015.10.18追記
ひたすら性能を追求するF1とかと違って、量産製品の設計は必ず「コスト」の考えが必要になります。設計とコストの関係についていくつか書いてみます
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