3Dプリンタでつくった型でうまく部品を分離させるための処理をいろいろ試してみました
前回は3Dプリンタでつくった型で樹脂部品を成形しようとしたけど、うまく分離できずに型が壊れてしまった、というところまで書きました。
突然ですが、3Dプリンタで「樹脂型」をつくってみることにしました。せっかく3Dプリンタがあるのになんで型を作るんだ?と思われるかもしれませんが、3Dプリンタは/同じものを何個も作りたいときに時間がかかる/使える材料が限定されていると言ったデメリットがあります。
今回はその問題を解決するために、型の表面に処理を施して型離れが良くなるようにしようとトライした過程を書いていきます。
結論は冒頭の写真の通り、とりあえずうまく分離できるようになりました。
3Dプリンタでつくった型は溶剤を吸い込む?
前回の記事で、型に離型剤を吹きかけたけど効果が無かったと書きました。
そして今回は、後で出てきますが、塗るタイプの離型剤をこれでもかというくらい塗りたくって見ても、やっぱり表面に効果が現れそうな気配がありません。
そこで私が立てた仮説は「3Dプリンタでプリンタしたものは肉眼ではわからないけど超細かいスポンジ状になっているんじゃないか?」というものです。
顕微鏡で見てないのでなんとも言えませんが、溶剤がどんどん吸い込まれちゃってると考えることも出来ます。
3Dプリンタは樹脂(フィラメント)を一度溶かして、それを積層させているだけなので細かい隙間が出来ていてもおかしくは無いんじゃないかと。
射出成形とかだと圧をかけて成形しているので完成品の密度がちゃんと出ますけどね。
この推測が正しいとすると、表面にちゃんと溶剤が乗るように、型の表面を改質してやらないといけないんじゃないか?と考えました。
具体的には、型の表面を「コーティング」してみることにしました。
前回の記事の後半で、型離れの悪い原因として型の表面が粗いからと書きましたが、それの改善と合わせてコーティングを進めていきます。
【光硬化パテ】で表面のデコボコを埋める&コーティング下地づくり
上で書いた通り、今回プリントした型で改善したいのは
- 表面に溶剤がのるようにしたい
- 表面のデコボコを無くしたい
という2点です。
デコボコを無くす方法として考えられるのはまず「凸」をやすりやリューターで削ること。
普通の部品でしたらそうするのが良いと思いますが、今回は型なので削りたい面が奥まったところにあり、作業性がすこぶる悪いです。
ですから今回の作戦は「凹」を埋めるやり方がまだ楽なんじゃないか思い、パテを塗って埋めてみることにしました。
でも、普通のパテだと塗ってから硬くなるまで時間がかかるからな〜と悩みながらグッズを探していたら出てきたのが【光硬化パテ】
その名前の通り、光に当たると硬化するパテです。
ちなみに、今回の型に塗ってみたのが下の写真です。(パテはからしみたいな色をしています)
光硬化と言っても直射日光に当てなければなかなか硬化しませんので、それほど慌てずに作業が出来ます。
いきなりパテを塗るとノリが悪いらしいので、#400程度の紙やすりで表面を荒らしておきます。
その後、パテを塗り終えたら蛍光灯の至近距離まで持って行って2分ほど光に当てておくと硬化します。
硬化しても表面はべとついているので半乾きなんじゃないかと不安になりますが、ちゃんと光を当てていれば固まっているので大丈夫です。
硬化したら#1000程度の紙やすりで削って、パテが盛り上がっているところを削ります。
今回はあくまで「凹」を埋めるだけなので、パテは薄く広げて塗れば良いですし、塗った後にガンガン削っちゃって大丈夫です。
この作業ではデコボコがきっちり平面になるというということはありませんが、ある程度は改善しますので、その効果に期待。
また、パテも樹脂ですのでコーティング効果はそれなりにあると踏んでいます。
タミヤセメントでさらにコーティング
もしかしたら光硬化パテだけでもコーティング効果はあるかもしれませんが、これだけだと一回成型しただけでそのコーティング(パテ)がはがれてしまうかもしれない、ということを恐れてもう一段コーティングしておくことにしました。
成型するたびにパテを塗る作業を繰り返さないといけないようだと、わざわざ型をつくって生産効率を上げようとしてるのに本末転倒になっちゃいますからね。
そこで持ち出したのが【タミヤセメント】
いわゆるプラモデルとかに使う接着剤ですね。
今回は型をABSでプリントしているのでABS用を使いました。(プラモデルの部品のABSと今回のABSはちょっと違う気もしますが)
小さい頃にプラモデルを組むのに接着剤を使ってて、接着剤を塗って乾いたところがなんかコーティングされたように見えたのを思い出して、今回使ってみることにしました。
型の表面にまんべんなく塗ってコーティングです。
乾いたらまた#1000のやすりで削って仕上げておきます。
ここまでで、型の表面を処理するという意味での作業は終了。
離型剤として【Mr.シリコーンバリアー】を使う
離型剤を塗る処理は部品を1個成型するたびに行うと考えて下さい。
そしてスプレーの離型剤では心許なかったので、液体を塗るタイプのものにしました。
シリコーンバリアーという名前ですが、レジンにも使えるようなことが書いてあります。
コーティングを終えた型の表面にシリコーンバリアーをまんべんなく塗ります。
ここまでの作業を2つの型に対してそれぞれ行います。
施した表面処理のイメージ図が下のものになります。
そして成形リベンジ!
準備が整ったので、いよいよ成形です。
前回より多めに締め込んでみました。
そしてレジンの主剤と硬化剤を混ぜて型に注入!(ドドスコ・・・)
しばらく待っていると前回は見られなかった変化が。
湯口と空気穴からブクブク吹き出してきていますね。
型の合わせ面の密閉度が上がったのでしょうか。
なんか期待できます。
ボチボチ固まってそうなタイミングで型をオープン。
キレイにいけましたね。
ここまでは順調です。あとは「p」がちゃんと型から外れてくれるか。
かなり硬かったので無理矢理ペンチで引っこ抜いてみました。
本当はちゃんとした型のように「エジェクタピン(押出しピン)」があると分離しやすいんでしょうけど、ピンと型の隙間精度がちゃんと出せないと思ったので今回は付けませんでした。
なんとか無事取り出して、やすりがけしたものが冒頭の写真のものになります。
型の分離自体はうまくいきましたが、主剤と硬化剤の攪拌の仕方が良くなかったようで、完成品は気泡だらけになってしまいました。
しっかり混ぜることも大事ですが、気泡が入らないように静かに混ぜないとこうなっちゃうみたいです。
また、型表面の凹凸もそれなりに残っていて、部品に転写されちゃってますね。
外観が大事な部品にはさらに手間をかけてやる必要があります。
さて、ここまで手間をかけるくらいなら3Dプリンタでどんどんプリントしていった方が速いんじゃないかという声が聞こえてきそうです。
が、3Dプリントできない材質のものは型をつくってやって成形するしかありません。
そして3Dプリント出来ないもので私が扱いたいと思っているのが「シリコンゴム」
というか、これまでやってきたことはシリコンゴムを成形するための前振りでしかなかったのです!
次回、いよいよ3部作完結編!!(なにこれ?)
こんなことも試してみました
ここからは余談なのでお時間がある型だけよろしければ読んでみて下さい。
型の表面コーティングは別の方法も試してみました。
一つは【サーフェイサー】を使って表面をならし、その上からシリコーンバリアーを塗るということ。
今回はスプレータイプのものを使いましたが、塗るとこんな感じになります。(試し塗りのときの写真です)
で、実際に成形してみたところ、抜けるは抜けるんですが、下の写真のように部品にサーフェイサーがはがれてくっついてきちゃいました。
こんなわけで、コーティング自体にそれなりに強度が必要であるということが分かったので、上で書いたような「3層コーティング」に行き着きました。