【機械設計の話】「設計」の仕事って何やるの?
「設計」の仕事は図面を書くことだけじゃなく、とても広範囲にわたるということを伝えたいです
- この記事は機械工学を勉強している学生さんや、なんとなく設計という仕事に興味があるという人に向けて書いているつもりです。
- 自分が学生の時に気づけなかったことを中心に書いていきます。
- 勉強していることが仕事でどう使われるのかや、会社での仕事の実際を伝えたいと思います。

いきなりですが、こちらの部品はなんでしょうか?
これは、世界で最も売れているバイク、ホンダ スーパーカブのエンジン部品の一部です。
例えば、この写真の右下の「ピン」を設計する場合のことを考えてみます。
今回は、エンジンの仕組みなどの細かい話がメインではありませんが、仕組みが分かった方がこの先の話がわかりやすいので、ご参考にGIF画像を貼っておきます。

上下に動いているのが「ピストン」
下の方で回転しているのが「クランクシャフト」
その間で、ピストンの直線運動を回転運動に変換する役目をしているのが「コンロッド」
冒頭の写真のピンは「ピストン」と「コンロッド」をつないでいるものです。
(ピストンの直下に描かれている小さい丸)
ちなみにこのGIFは下のサイトからいただいてきました。
これ以外にもいろいろ自動車の仕組みがわかるGIFがありますので、ご興味ある方はどうぞ。
いや~車には人類の英知が詰まっていますね!百の言葉並べるより、動く図! というわけで、ギズ系列ブログJalopnikが下の動画をサンプルに「車の仕組みがひと目でわかるGifを教えてください」って読者に提供を呼びかけたところ、なかなか楽しい図が集まりましたよ。
設計するときには例えばこんなことを考える
※この先ゴチャゴチャといろいろ書いていますが、中身の細かいことよりボリューム感だけ感じ取っていただければと思います。
前置きが長くなってしまいましたが、形状だけ見るとかなりシンプルなこのピン。
形状だけを図面に書くとこんな感じでしょうか。(まだDraftSightの使い方に慣れてないので、手抜きの図ですいません)
※これは現物をラフに実測して、私が勝手に書いた図です。
この図に書いたこと以外で、描かなきゃいけないことは例えば
- φ13のはめ合い公差設定(「ピストン」と「コンロッド」それぞれに対して)
- φ13の表面粗さ指定
- φ13に対する円筒度などの幾何公差
- 材質及び熱処理指示と各部硬度
このあたりが、この部品の機能から考えると重要なポイントだと思います。
今サラっと「機能」と書きましたが、欲しい「機能」を実際の部品に落とし込むのが設計の仕事のひとつです。
もちろん、機能を満足するだけでなく、設計をするにあたって色んな「制約」が必ずついてくるので、最終的にはそれを両方クリアするような「仕様」にしないといけません。
このピンの機能と制約をいくつか挙げてみると、
- 折れてはいけない
ガソリンが爆発することによって生じた力がピストンを介して伝わってきて、コンロッドに伝達します。
ですから、細いと折れてしまいますよね。 - 表面が磨耗してはいけない
冒頭の写真をよく見るとわかりますが、円周方向に筋がついています。
これはコンロッドとこすれたあとですね。
適切に設計されていれば、ダメージはこの程度で済みますが、例えば熱処理の設定が良くなくて、硬度が低いと磨耗が進んでしまいます。
また、表面粗さの設定を間違えると、潤滑がうまくされなくなり、これまた磨耗の原因となります。 - ピンとコンロッドがスムーズに摺動できないといけない
エンジンが回っているあいだは、軸と穴の間で常に摺動しているので、それぞれの形状がちゃんとできていないとスムーズに回りません。
また、表面粗さが粗すぎても同様です。 - 与えられたスペースに収まってないといけない
機能さえ満足すればどんなに大きくなってもいい、なんてことは無いのは当たり前ですね。 - なるべく安く製造できないといけない
カブは新興国での販売がメインでしょうから、とにかく安くつくらなければいけないでしょう。
そのためには、どんな小さな部品でもコストダウンの工夫が必要です。 - 世界中で製造できるようになってないといけない
カブは冒頭に書いたように、世界で最も売れているバイクですから、日本のように生産技術に恵まれた国じゃなくても製造できなければいけません。
細かいことを書き出すともっとたくさん出てくると思いますが、たった1本のピンでも色んなことを考える必要があるんですよね。
上の方で書いた図面に書く中身と、機能と制約がそれぞれつながっているのが分かるでしょうか?
この辺のお互いが複雑にからみ合うことがら同士をうまく擦り合わせてバランスを取っていくのも設計者の仕事になります。
例えば、
- スペースに入るようにするにはピンを細くしたいけど、折れないようにしないといけない。
- なるべく安くしたいので表面粗さを粗くしたいけど、磨耗しないようにしないといけない。
てな感じです。
ここまでは設計の教科書に書いてありそうな中身を、自分なりになるべく噛み砕いたつもりです。
が、そもそも書いてなさそうで、設計者にとって大事な能力があります。
それはコミュ力!!
ここで言ってるコミュ力は「うぇ〜〜い!!」とかノリの問題のことではありません。
(そういうのが必要な場合ももちろんあるんですけどね)
設計者はだいたいどの会社でも、関連部署との調整役にさせられるもんみたいです。
そこんところを次回に書きたいと思います。