【機械設計の話】図面を描くのってなんで難しいんだろう?

設計といえばやはり図面を描くというイメージが強いと思います。
でも、学校ではお絵描き程度にしか習わない場合もあるのでは?
図面の役割と重要性、描く難しさについて、実際に仕事してきた経験から書いてみます

  • この記事は機械工学を勉強している学生さんや、なんとなく設計という仕事に興味があるという人に向けて書いているつもりです。
  • 自分が学生の時に気づけなかったことを中心に書いていきます。
  • 勉強していることが仕事でどう使われるのかや、会社での仕事の実際を伝えたいと思います。

機械系の学生さんだったら必ず製図の授業はあると思います。

でも授業を受けててピンとこない人もいるんじゃないでしょうか?
(まぁ、学生の頃の私なんですけどね。この先も15年前の私が読み手だと思って書いていきます)

今時の製図の授業がどんな感じかはわかりませんが、基本的には三角法の見方や、寸法の入れ方、幾何公差の意味なんかを習って、実習でなんかの部品を図面に書き起こす、って具合ですかね。

ただ、本来の設計の流れは、「必要な機能があって、それを実現できるものの形状を決める」であると先日の記事でも書きました。

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「設計」の仕事って何やるの?

「設計」の仕事は図面を書くことだけじゃなく、とても広範囲にわたるということを伝えたいです

https://poli-studio.com/2015/10/05/1107/(脱サラはじめました)

学生の時に本格的な設計を経験できる人はそう多くはないでしょうから、この設計の考え方の順番がわからず、製図の授業がただのお絵描き的に感じてしまうかもしれません。

というか、教える方も実際の設計の仕事をどれだけ知ってるのかという話もあります。

なんせ、実際に企業で設計の仕事をしている人の中でも、バッチリ図面を描ける人がどれだけいるかって感じですから。

もちろん私はバッチリ描けない方の人なので、製図についての細かいルールとかについてではなく、「そもそも図面の役割は?」というところを少し掘り下げてみたいと思います。

仕事の中で図面を描くということが、どういう位置付けのものか少しでも伝われば幸いです。

図面の役割と図面を描くことの難しさ

図面を描く最大の目的は「設計者の意図を正確に製作者に伝え、部品を製造してもらう」ことです。

ひとつ目のキモは「設計者の意図」

これはただの設計者一個人の考えということではなくて、その製品の研究・開発の成果全てのことだと思ってください。

さらに言うと、コストダウンのための工夫や、新しい製法なんかも書かれている場合があります。

ですから、製造業にとって図面は超トップシークレットなんです。

本当は学生のうちに、教科書に載っているような図面ではなく、実際の企業で描かれる「生きた図面」を見る機会があると面白いと思うんですが、なんせとんでもなく機密度が高いので、そう簡単に見れないのが残念です。

それはさておき、図面は開発の集大成ですから、漏れなく成果を図面に反映しなければいけません。

そこが非常に難しくて、設計担当者の腕の見せ所でもあります。

二つ目の難しさは「正確に」

製造現場の人は設計者の頭の中をのぞけません。

設計者が現場で付きっきりで意図を伝え続けるわけにもいきません。

意図を伝えるコミュニケーションツールとして図面はあります。

ですから、図面が正確に書かれていなければ、設計者の思った通りのものが出来ません。
(でも日本の製造現場は優秀な人たちが多いので、うまいことできちゃう場合もあるんですけどね)

「正確に」というのは、ひとつは誤記がないように。

すごく当たり前のことなんですけど、大規模な図面になってくるとノーミスで仕上げるためにかなりの手間がかかります。

でも寸法がひとつでも間違えてたら、部品が組めなかったり、狙った性能が出ないですぐ故障しちゃうという事態になりかねないので、頑張るしかないんですよね。

「正確に」のもうひとつの観点は、「規格に対して正確に」というのがあります。

この意味で正確に図面を描くというのを実際にできている人はほとんどいないと言っていいと思います。(もちろん私を含めて)

これは一体なにが悪いんですかね?教育が悪いのか、そもそもルールが複雑すぎるのか。

学校の授業で「JIS規格」について習うと思いますが、製図に関してだけでも全てを把握するのはなかなか厳しいです。

規格に対して正確でないと何が起こるかというと、設計者側と製造現場で図面の解釈の食い違いが起こります。

そうするとやっぱり、設計者の意図から外れたものが出来上がってしまいます。

誤記は明らかに間違いというのが気付けばわかるんですが、こちらはなかなか気付きにくいという点でかなり厄介です。

適切じゃないかもしれませんが、例をひとつ挙げてみます。

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真円度の定義をちゃんと理解していなかったために、組めなくなる可能性のある軸の図面を書いてしまいました。(この場合は「円筒度」を記入するのが正解)

製図のルールを覚えることは外国語を覚えるようなものだと私は思ってます。

図面はコミュニケーションツールだと上で書きましたが、コミュニケーションのためには言葉が必要で、お互いが言葉の意味を履き違えていたら、話がかみ合わないですよね。

私が最初の会社が入った時は「あい きゃんと すぴーく いんぐりっしゅ」レベルの状態だったので、まぁヒドかったですが、研修や優しい先輩がたのおかげで、多少はどうにかなりました。

でもそんなに甘くない会社もあるでしょうし、そもそも実務を経験しないと規格の意味がよく分からないという問題もあると思います。

そういう意味でも勉強が難しいジャンルだと思いますが、やはり製図にかかわる規格の勉強はしておいた方が良いです。

図面は「契約書」

「製造してもらう」のは他社であることも多いです。

会社と会社の間のやりとりでは「契約」が発生します。

ザックリ言うと「この図面の部品を¥◯◯で造ってください」という契約です。

もちろん契約書というのもありますが、図面自体が契約書の役割も果たします。

どういうことかというと、図面に書いてある中身によって加工工程が決まるので、それで部品の製造単価が決まり、この中身だったらこの金額で造りますよと発注側と受注側でやりとりされます。

ですから、図面の書き方が悪いことによって部品の性能が出なかった場合、図面を修正すると製造方法も変えないといけなくなってコストアップ、ということになることもあります。

これは上で書いた「正確に」ともつながる話でもあります。

図面内容の変更はお金に直結するものだということを覚えておいてください。

図面はメチャクチャ重要なのでチェックが厳しい

こんな感じで、たぶん皆さんが思っている以上に図面の重要性が高いということが伝わりましたでしょうか?

メチャクチャ重要なので、実際の仕事では何重にも慎重にチェックされます。

「こんな細かいことまで言われるの〜?」ってくらい厳しいです。

部品を造るために図面を描いて発行する作業を「出図」と呼びますが、出図前の期間はもうそれはテンヤワンヤです。

この仕事はやはり注意深い人が向いていると思います。

私なんかはチェックを受けた図面をどっか直しちゃどっか間違えなんてことをよくやってたので、余計に時間がかかっていた気がします。

上で偉そうなことをたくさん書きましたが、結局は図面を書く経験をたくさん積んだ人が伸びると思います。

そうは言っても、学生のうちに何もやらないでノーガードなのと、それなりに基礎をやってる人では伸び方が全然違うと思いますので、これを読んで勉強のモチベーションにしていただけたら幸いです。