【機械設計の話】量産設計でコストの話は付きものだけど、学校ではほとんど教わらないかも
ひたすら性能を追求するF1とかと違って、量産製品の設計は必ず「コスト」の考えが必要になります。
設計とコストの関係についていくつか書いてみます
- この記事は機械工学を勉強している学生さんや、なんとなく設計という仕事に興味があるという人に向けて書いているつもりです。
- 自分が学生の時に気づけなかったことを中心に書いていきます。
- 勉強していることが仕事でどう使われるのかや、会社での仕事の実際を伝えたいと思います。
最近はグローバルの競争が激しくなり、どの業界でも「コスト競争力」という観点で、日本は苦戦することが多くなりました。
では「コスト」は何で決まっているのか?
簡単ではありますが、図にしてみました。
ここでは製造業を想定して書いています。
まず一番大事なのは図の右上に大きく書いてある「売価は市場の競争力で決まる」ということ。
例えば、あとで説明する「変動費」+「固定費」に加えて「利益がこれくらい欲しいから売価は¥◯◯◯に設定しよう」というふうに決めたとします。
だけど同じような性能のものが他社からもっと安く売られていたら、みんな安い方を買いますよね。
(あくまで性能が同じならという前提ですが)
ですから、まずは市場調査して売価を設定し、目標とする利益を得るために変動費、固定費を削っていく、という流れになります。
商売をしているひとはみんなコストを下げたいと思っていますし、工夫を考えています。
それを考えるための「コスト」の基本的な部分について書いていきます。
変動費と固定費
変動費
製品をつくった数に応じてかかるコストのことです。
たくさん作ればその分かかるものとして、
- 人件費(残業代,歩合給)
- 販促費
- 材料費
- 操業費(電気代,工具等消耗品)
などが挙げられます。
固定費
製品をつくった数に関係なくかかるコストのことです。
製品を100個つくろうが1万個つくろうが同じ金額だけかかるようなものを指します。
- 人件費(固定給)
- 家賃などの賃料
- 経費、間接費
- 製品開発費
- 設備投資
- 金型製作
以上をふまえて、設計者の立場で考えられるコスト低減について考えます。
設計仕様とコストの関係
いろいろな観点とコストが上がる、下がるの傾向について書きます。
量産における工程の話も絡んでくるので、こちらの記事に目を通していただけると話がわかりやすいと思います。
量産では1日にたくさんの部品、製品をつくるのでばらつきが大きい
それを考えないで「攻めた設計」をするといろいろとトラブルが起こります
数をたくさん作ればコストが下がる
これは「固定費」をなるべく多くの数で割って、製品コストを下げようということです。
例えば、とある部品をつくるのに必要な金型が100万円かかるとします。
その部品を1000個しかつくらないと、1個あたり1000円かかってしまいますが、100万個つくれば1個あたり1円になります。
これはかなりのインパクトです。
ですから、市場のニーズが少ない「とがった」製品はどうしてもコストがかかっちゃうんですね。
その製品をどれだけの数を販売するかは、その会社の戦略によります。
ですが、それは別としても例えばすでに量産している部品を「流用」することによって固定費を削減できます。
それ以外にも「標準部品」と言われる、ボルト、ナット、ベアリングなどを購入して使う際も、市場全体としてたくさん使われているものはやはり価格が安いので、それもある意味流用効果になります。
こんな感じで、設計者の工夫で固定費を下げることができます。
部品点数が少なければコストが下がる
これは当たり前のことではあるんですが、設計の仕事をやっていると、これができれば苦労しないというところでもあります。
だからこそ、設計者の腕の見せどころとも言えますね。
材料が少なければコストが下がる
材料費は製品の完成形状の分だけではなく、加工の途中で捨ててしまう分も含みます。
ですから加工方法についてもよく知っていないと、なかなか材料の使用量は減らせません。
ここでは詳しくは書きませんが、コストの観点からも加工方法の知識を持っておく必要があるということを頭の片隅に置いておいてください。
製造工程数が少なければコストが下がる
工程数が多いということはそれだけ設備投資もたくさん必要ですし、時間もかかるので操業費も上がります。
ですから、必要以上に複雑な形状だったり、厳しい公差を要求したりするとその分工程数が増えることになるので、あくまで「最適な」要求値を図面に書く必要があります。
その「最適」についてはこれまでのノウハウだったり、製品開発の試験の中で確認したりという感じです。
製造工程が簡単なものならコストが下がる
製造工程が簡単ならば、その部品を製造できるサプライヤーも多くなります。
冒頭で、「売価は市場の競争力で決まる」と書きましたが、この競争原理がはたらいて、安く部品を購入できます。
でも、簡単なものばかりつくっていたら付加価値のある製品はつくれませんから、どこにコストをかけるかが製品を開発するうえでポイントになってきます。
人件費が安いところでつくればコストが下がる
これはまさに日本の製造業の空洞化なんて言われていることですね。
いわゆる「現調化」でコストを下げようという流れが良いか悪いかは別として、コスト低減効果が高い手法ではあります。
(個人的にはあくまで「目先の」という感じがしないでもないですが)
海外の生産技術はやはり日本ほど高くないので、そんなところでもつくれる仕様にするというのが、設計者の仕事としては出てきます。
いろいろ書いてきましたが、これらの要因はそれぞれが独立しているわけではなく、複雑に絡み合っているので、その中で最適解を導き出すのも設計者の仕事になります。
(設計者だけで考えて決めるというわけではありません)
コストはとりわけ「製造方法」によって決まる割合が大きかったりもします。
ですから、製造方法について勉強する機会が大学の講義などでもしあれば、スルーせずにちゃんと聞いておきましょう(笑)
余談ですが、私はこれまで自動車の設計をやってきて、製造工程を見てると「これだけの部品をつくって組み立ててをして、この値段で売ってよく利益が出せるな」と感じます。
それだけ量産効果というのはデカいということなんですね。
コストの詳細は企業にとって図面と並んでトップシークレットですが、一般的な傾向として今回の記事を書いてみました。
会社によってコストの話に設計者がどこまで首をつっこむかは差がありますが、設計者がどこまでコストのことを考えるかによって、確実に最終的なコストに差が出てきますので、それを頭に入れておいてください。