【機械設計実践】製品に対する要求機能を考えよう
製品仕様を決める前に、製品にどんな機能が必要かを洗い出して、手戻りの無い設計開発を目指そう
- この記事は機械工学を勉強している学生さんや、なんとなく設計という仕事に興味があるという人に向けて書いているつもりです。
- 自分が学生の時に気づけなかったことを中心に書いていきます。
- 勉強していることが仕事でどう使われるのかや、会社での仕事の実際を伝えたいと思います。
この記事は「コーヒー焙煎機」の設計を通して、製品設計の具体的な流れを疑似体験してもらうシリーズです。
シリーズ全体の目次もリンク先の記事にあります。
これまでの記事で機械設計の仕事はどんな感じのもんかというのを大まかに書いてきました。その中で、機械設計の仕事で考えなきゃいけないことは広範囲にわたるということと、量産製品設計の流れはなんとなく伝えられたかなと思います。この先のもうちょっと細かい話は概念的なことを書いていっても伝わりにくいと思うので、具体的な製品を設計していく過程でそれぞれの考え方、位置付けを書いていきます。
「いい加減、焙煎機の形を決めろよ!」なんて声が聞こえてきそうですが、それはまだ先です。
機械設計を実際に経験をしていくとわかるんですが、設計者が想定していない機能は製品に反映されません。
たまたまこんなことができちゃった、なんてことがあったらそれはむしろマズイです。
「たまたま」不具合が潜んでるということにもなっちゃいますからね。
ですから、詳細設計を始める前に「この製品に要求されている機能は何か」ということ考えましょう。
もし必要な機能の考えが抜けたまま設計を進めて、あとで「なんでこれが入ってないの?」ってことになったら、場合によっては設計の大変更が必要になってしまいます。
これを防ぐためには、最初に要求機能をキッチリ考えることが大事。(開発が始まってから「この機能も追加しろ!」という圧力がくることもありますが。。。)
と、偉そうなことを書きましたが、このプロセスを会社の仕事で「最初から」ちゃんと経験する人は割と少ないと思います。
これは手を抜いているとかいうことではなくて、仕事として新しいものを開発する機会にめぐりあえることはそう多くないからです。
特に大企業ではそうじゃないでしょうか。
どういうことかというと、新製品を開発するといっても、割と既存の部品をベースにちょこちょこいじってくということが結構あるからです。
そのときにはもちろんちゃんとベースの部品の機能というのを把握した上でいじらないといけないんですが、それはあくまで他人が考えた機能を追っかける作業。
一から機能を考えるのは意識の問題というか、訓練が必要だと思いますので、将来そういう仕事に巡り会えたらラッキーだと思ってください。(その分大変ですけどね)
前置きが長くなりましたが、今回のコーヒー焙煎機の要求機能について考えていきます。
要求機能の考え方
要求機能を考えるときは具体的な製品形状や、数値目標ではなく、もっと概念的なもので進めていきます。
逆に、製品の想定を具体的にしすぎると、本当に必要な機能が抜け落ちてしまう恐れがあります。
例えば今回の場合だと、今の段階で勝手に「焙煎のための熱源は電気でやる」と想定して設計を進めてしまうと、あとでやっぱガスを使いたいってなったときに、ガス爆発に対する安全性の考え方が抜け落ちたままになってしまうかもしれないということです。
この要求機能を洗い出す作業は、ある意味で思考のトレーニングみたいなもので、「どこまで機能を抽象化できるか」「どこまで広く考えられるか」というようなところがあります。
要求機能を考えるときには”設計は「コミュ力」だ!!」“という記事で書いた、製品開発の流れを思い浮かべてください。
これは一例ですが、機能を考えるときには動作しているときのことだけではなく、製品のライフサイクル全体で考える必要があります。
例えば今回の焙煎機だと、使用頻度が相当に高くなるはずなので、部品交換を含めたメンテナンスをしやすいようにするとか。
どれだけ広く考えられるかは、どれだけ使う人の作業を想像できるか、ということにつながります。
そして私はコーヒー焙煎を商いとしたことがありません!
ですから、ちゃんと要求機能を洗い出せるか不安ですが、とにかくやってみます。
コーヒー焙煎機の要求機能
上の図のような感じで書き出してみました。
当たり前のことが書いてあるように感じられるかもしれませんが、最初はこの当たり前のことを書いておくのも必要です。
機能を大きなくくりで何段階かに分けて書くのが良いと思います。
実際にはもう一段くらい掘り下げてもいいかもしれませんが、ここでは割愛します。
緑色の枠が焙煎機としての基本機能、青の枠が付加的な機能というイメージです。
各項目について簡単に解説を書いておきます。
焙煎ができること
まさに焙煎機の機能の中心です。
コーヒーの焙煎について知らない人もいると思いますので、中身については無視してもらって大丈夫です。
この中でクセモノなのが「壊れないこと」
未来永劫壊れないものの設計はできないので、寿命をどのように考えるかが今後のポイントになります。
いわゆる製品開発というのは、この基本機能を達成するために設計したり試験したりというのがメインになってきます。
安全であること
安全性はヘタしたら、上の機能よりも大事かもしれません。
お客さんにケガをさせてはいけないというのはもちろんありますが、製品によっては法律で決められていたりすることもあります。
そして危険だと認定されると、訴えられて賠償責任が発生するかもしれません。
ここでは特にお客さんの使われ方をイメージしながら今後の設計を進めていくのが大事になります。
一般家庭に設置しやすいこと
これは今回のコンセプトに沿った要求機能です。
開発時に改造しやすいこと
これはちょっとイメージしにくいかもしれません。
実際の開発では最初にわからないことも多いので、試作品をつくって色んなデータを取ります。
そのときに、いろんな部品を交換して試してみるので、本来の製品では分解する必要が無い部分も交換したりということが発生します。
ですから、実際に発売する製品と試作品はかならずしも同じ形状ではありません。
量産できること
量産とひとくちに言っても、生産台数はマチマチです。
今回は「1台つくって終わり」ということではなく、数十台〜数百台はつくるイメージです。(それだけ売れるかどうかは別として)
1台だけ製造するのは割とムチャな形状でもつくれてしまいますが、量産するとなるとそうはいきません。
もちろん安くつくれる製造法にしないといけないということがあります。
メンテナンスしやすいこと
定期的な清掃や部品交換に時間がかかると、作業者・事業者にとってはランニングコストが上がることになります。
そこを抑えられることをひとつの売りにしたいなと思い、現時点では書いておきました。
とりあえずイメージをつかんで頂くために書いてみました。
必ずしも最初に書いたことが全て達成できるとは限りません。
コストや開発期間の都合でどれかをそぎ落とす必要に迫られる場合もありますが、まずは抜け漏れの無いように広く考えてみましょう。
次回はこれを踏まえて、具体的な目標値を設定していきます。