【機械設計実践】設計する製品に達成させたい目標値を決めよう
これまでに決めた製品のコンセプトや要求機能から、具体的な目標値を設定しよう
- この記事は機械工学を勉強している学生さんや、なんとなく設計という仕事に興味があるという人に向けて書いているつもりです。
- 自分が学生の時に気づけなかったことを中心に書いていきます。
- 勉強していることが仕事でどう使われるのかや、会社での仕事の実際を伝えたいと思います。
この記事は「コーヒー焙煎機」の設計を通して、製品設計の具体的な流れを疑似体験してもらうシリーズです。
シリーズ全体の目次もリンク先の記事にあります。
これまでの記事で機械設計の仕事はどんな感じのもんかというのを大まかに書いてきました。その中で、機械設計の仕事で考えなきゃいけないことは広範囲にわたるということと、量産製品設計の流れはなんとなく伝えられたかなと思います。この先のもうちょっと細かい話は概念的なことを書いていっても伝わりにくいと思うので、具体的な製品を設計していく過程でそれぞれの考え方、位置付けを書いていきます。
さあいよいよ製品の方向性を定める作業も大詰め。
製品の具体的な目標を数値で設定します。
例えばスマホで言えば
- 本体と画面のサイズはいくつにするか
- バッテリーは何時間もつようにするか
- 販売価格はいくらにするか
- いつ発売するか
というような感じ。
この時点では「後で変えると最初からやり直しレベルになる基本的な項目」について決めれば良いと思います。
考えるのが難しいのは数値化が難しい項目。
人の感性に関わるようなものが多いと思います。
スマホなら「ヌルヌル動く感じ」とか数値で表せるんですかね?
場合によっては既存の指標で表せないものに対して、指標を考えるところから始めないといけないかもしれません。
ここでもコンセプトや要求機能を考えた時のように、製品の構成ありきで想定するのではなく、製品のアウトプットとして達成すべきものを決めます。
では今回のコーヒー焙煎機について考えてみましょう。
コーヒー焙煎機の目標値設定
製品のコンセプトに対応する「キモ」の部分
まず一番大きいのは要求機能を決める記事で書いてしまいましたが、
- 一度で1kgの豆を焙煎できること
これは絶対に守る数値とします。
製品サイズ
製品サイズを決める時には使われる場所を想定するのが一般的かと思います。
例えば、一人暮らし向けの洗濯機を設計するなら、恐らく狭いアパート住まいの人が多いから、その洗面所のスペースに入るように、という感じです。
あとは持ち運ぶようなものなら「ポケットサイズ」や「カードサイズ」なんてのもよくありますね。
こんな感じで、既存のものに合わせたサイズ設定が割と分かりやすいんじゃないでしょうか。
今回の焙煎機の場合は1戸建ての一般家庭にお住まいの方をターゲットにしているので、収納場所と作業する場所を想定して決めるべきかと思います。
作業場所から考えると、もし屋内で作業するなら換気扇のあるキッチンでやることになるでしょう。
そして使えそうなスペースがあって換気扇も近い、ガス台の上あたりを使うことになると思います。
うちのガス台を置くスペースは幅600mm、奥行きが500mm、換気扇までの高さ850mmだったので、このスペースに収まることという目標値にします。
収納場所に関しては、副業としてこれを買うような人はどうにか頑張ってくださいということで。。。
もちろん実際の仕事ではちゃんといろいろ調査してください。
売価
これを決めるのが恐らく一番難しいんじゃないかと思いますし、企業内の仕事として考えた時には設計者が決めないと思います。
「製造原価を¥◯◯◯以下にしろ」という要求があって、それを元に開発を進めていくのが一般的じゃないでしょうか。
でも今回は決めてくれる人がいないので自分で考えます。
先日の既存の焙煎機を調査した記事でこんなグラフを作成しました。
この価格トレンドを見ると、1kg焙煎できるものなら30万円にしても許されるのかな、というイメージです。
これを買って副業する側の立場いうと、この焙煎機を買うことは設備投資になるので、これを償却するという観点で考えてみます。
上のリンク先の記事では「月10万円の利益を上げるには1日に2.5kg焙煎しないといけない」というザックリ計算をしました。
この想定を使って、焙煎機を買うという設備投資を1年で償却しようとした場合
- 1年で焙煎する豆の量:2.5kg x 1ヶ月の稼働日20日 x 12ヶ月 = 600kg
- 設備投資を100g当たりに割り振る:30万円 / 600kg / 0.1 = 50円
そしてコーヒー豆を100g500円で売るとすれば、設備償却の占める割合は10%
2年償却で考えれば5%(実際の設備償却を計算する時には借金の利率なんかも考慮しないといけないのでもうちょっと複雑です)
悪くないレベルじゃないかなと思います。
ということで、売価目標値は30万円とします。
そうすると製造原価はいくらに設定しましょう、というところまで考えると長くなるので今回はパスさせてください。
耐久性目標
業務用焙煎機の耐用年数の相場がさっぱりわからないので難しいですが、「骨格部分は永久保証で、可動部については2年に1回の交換対応」くらいの感じでしょうか。
ここも今回はあまり時間をかけてもしょうがないので、この前提で今後は検討を進めます。
肝心の性能は?
副業とはいえ業務用として売るからには、プロにはかなわないとしても、それなりの品質を確保した焙煎ができないとまずいと思ってます。
だけどコーヒーの場合は味を数値化するのは難しいし、そもそも好みの問題だったりもします。
ですから、純粋に製品の性能として考えたときには「どれだけムラの少ない焙煎ができるか」に尽きると思います。
焙煎度のコントロールは作業者のやり方でどうにかなるとしても、ムラを無くす工夫ってのはほとんど出来なくて、機械の性能に依存するものかなと。
ただ、その「焙煎ムラ」をどう数値化するかも難しい。
ちょっと今回は数値化は勘弁して頂いて、「とあるベンチマークに設定したお店の豆と同等のムラ度合いに仕上がること」とさせてください。
目標値の設定のやり方として、既存の製品(ベンチマーク)に対して上回るようにとか同等にというのもあります。
今回は具体的なお店の名前は出しませんが、自分の中ではベンチマークとして設定してあるので、そこを目標にします。
ここまでで、製品のコンセプト、機能、目標値を決めてきたので、次はいよいよ製品構成の構想に入ります。