Nintendo DS Liteを分解して樹脂成形品のお勉強
量産製品を分解して観察することで、部品を設計するうえで必要な構造の知識や”相場”の感覚を養えます
以前、私は自動車メーカーに勤めていたので自動車部品の機械設計をやっていました(当たり前ですが)
でも独立してからは自動車部品関連の仕事だけではなくなります。
機械設計と言っても幅広いので、元々の専門分野以外のことも色々知っておかないとな〜と感じています。
その中でも身近な割にマニアックなのが樹脂(プラスチック)製品。
一般の人の目に触れるような製品はもう樹脂製品だらけですよね。
でも樹脂って扱いづらいというか安定性が無いので、下手な設計するとすぐトラブル起こしちゃいます。
そこで私にとってこれまであまり業務上のお付き合いがなかった民生品の樹脂製品の詳しい形状ってどうなってんの?ってことを勉強してみることにしました。
その方法のひとつが本を読むこと。
例えば私はこんな本を読みました。
私自身が金型の設計をすることはほとんど無いと思いますが、金型の構造を知らないと設計も出来ないですからね。
逆に言うと、金型の構造を知っていればある程度は樹脂製品設計で気をつけるポイントはわかってくると思います。
しかし、本を読んだだけで全部理解できちゃうほど私は優秀ではありません。
やっぱり現物見ないとね。
本には理屈は書いてありますけど、具体的な寸法設定の数値とかはあまり書いていません。
というかそれは製品によりけりなので書きようがありません。
そこがまさにノウハウになる部分でもあります。
「こういう製品ならここの寸法はこれくらい」というような「相場」を知っておくと実際に自分が設計するときに効率良く進められます。
設計者は学者ではなく、製品の形状を決めてナンボなので色んな製品を見ておくと感覚が養われると思いますよ。
生け贄は「Nintendo DS Lite」
研究対象として犠牲になっていただくのは、今はもう既に時代遅れになってしまったNintendo DS Liteさんです。
たまたまうちでもう使われずに眠っているのを思い出したので、こいつを分解することにしました。
確認ポイントは大きく分けて3つ。
- 操作系の部品(ボタンやスイッチ)と電子部品がどう接続されているのか?
- 肉厚や溝幅などの一般的な寸法
- アンダーカット部の処理
先にアンダーカットについて説明しておきます。
樹脂製品は一般的に金型に溶かした樹脂を流し込んで成形しますが、型を開くのに邪魔な方向にある凹凸部のことを言います。
なんて文字で書いても全く伝わらないと思いますので以下のリンク先の親切なページを見てみて下さい。(動画で確認できます)
ではガシガシ分解していきます。
まずは特殊工具でのネジはずしからスタート
さぁ分解するぞ!と気合を入れたところでいきなり特殊工具が必要なことが分かり出鼻をくじかれます。
早くも心が折れそうになりますが、仕方ないのでホームセンターでY字ドライバーを購入。
工具さえあれば難しいことはなく分解は進みます。
早くも電子基板が露わになり、ボタン・スイッチ類との接続が確認できます。
う〜ん、なるほど。
こんな感じになってるんですね。
と、見てしまえばこんなもんかという感じかもしれませんが、実際に見て知ってるのと知らないのじゃ大違い。
現物は生きた情報なので勉強になります。
DSの特徴「上下2画面」はどう繋がってる?
Nintendo DSと言えば液晶画面が上下に2つ付いてることが特徴ですよね。
でもDSは折りたたみ式で、2画面は可動するヒンジ部をまたいでいます。
どうやって繋がってるんですかね?という写真がこちら
真ん中の白い四角いものが上側の液晶の背面ですが、そこから出ている線(というかフィルム状のもの)やスピーカーの配線がヒンジ部の筒の中にギュッと詰まってます。
これは組み立てが大変そうですね。
でも電子辞書とかもこんな感じなんでしょうから、この業界では普通のことなんでしょう。
分解を進めていくとこんな状態に。
お前は絶対にこの穴をくぐれないだろって部品がいくつか出てきました。
これはある程度組み立てた状態で半田付けしてるんでしょうね。
今回はこいつは再起不能で構わないので、配線をちょん切って分解を進めます。
液晶画面は筐体にノリでくっつけられていました。
スピーカーと筐体の間にはスペーサー(インシュレーター?)が入ってます。
DSを開いたり閉じたりするときのしっとりクリック感はこの部品が出しているようです。
こいつは金属部品でカシメられていたので残念ながら分解できませんでした。
そんなこんなで大体分解完了。
下の写真だけではわかりづらいですが、内蔵部品との位置関係を考えながら筐体各部の形状を照らし合わせてみると、どういった設計思想なのかが見えてきて面白いです。
鉛筆のラクガキみたいのは私が書いたのではなく、組み立て時のチェックかなんかでしょう。
“カチッ”ととまるスナップフィット
樹脂の筐体では多く使われている「スナップフィット」
名前は初めて聞いても、実際に使ったことがある人は多いと思います。
ツメが穴に”カチッ”と引っかかって抜け止めになるアレですね。
スナップフィットの設計 Part 1(proto labs)
DSの場合は下側(基板とボタンが付いている側)の筐体に使われていました。
ちなみに上側はスナップフィットではなかったです。
分解前はスナップフィットになっていると思い込んでいたので、無理やり外そうとしてもなかなか外れずに苦労しました。
で、このL字状の部分が序盤に書いた「アンダーカット」形状になっています。
その痕跡が下の写真で伝わりますでしょうか?(なるべく見やすくなるように明るさやコントラストをいじってます)
周辺と段差が付いている部分が傾斜コアとメインとなる金型の境目だと思われます。
こういった境目は外観に現れてはいけないので、そうならないような製品形状・金型構成にする必要があるんですね。
設計者の観点で言うと、アンダーカットがある部分では傾斜コアがスライドする範囲がこれくらい必要なので、その部分には他の形状をつくってはいけないということになります。
その範囲がどれくらいのものなのかをこうやって実際に見ておくと感覚として分かりますね。
上の写真のような薄肉や狭い溝のものも成形できちゃうんですね。
こんな形状ばかりの設計をすると怒られるんでしょうけど、ここぞというところでは使えますね。
ダラダラと書いてきましたが、機械設計の理解を深めるにはこんな方法もあるということで。
ハードオフのジャンクコーナーとかでも安く生け贄をゲットできると思うので、ご興味のある方はぜひやってみてください。